今回は、「王様の新しい街 さいころニュータウン」誕生から完成までの経緯をお話しします。
このゲームがうまれるきっかけは、《横浜シュタイナー学園》という全日制小中一貫校におけるボードゲーム部の活動からでした。
横浜シュタイナー学園では7年生(中1)以上の生徒がさまざまな部活動を行っており、ボードゲーム部もそのひとつです。
私は縁あって(店長いおぴーがこの学校の卒業生)、ボードゲーム部のアドバイザーを務めさせていただいて、今年で4年目になります。
最初のころは、アベカエサル・バルバロッサ・うさぎとはりねずみなど、さまざまな名作ゲームを紹介し、皆でプレイするだけの活動でしたが、3年目の昨年、遊ぶだけでなく、作ってみようかと思い立ちました。
作るにあたり、どんなゲームが良いかと考えて、部員がことのほかダイスゲームを好むことから、まずジャンルはダイスゲームにしようと決めました。
基本アイディアはざっくりと
・陣取り
・3個のダイスを振り、出た目の合計のマスを取れる
・ダイスの目でチップをもらい、ダイスの目でチップを置く
・振りなおし回数は固定でなく、もらえるチップとバーター
・数字を作る3個のダイスと、移動・振り直し・チップを置くダイスをまとめて6個同時に振る
で、まとめてみました。
試遊用に作ったボードはこんな感じです。
生徒たちでテストプレイを行った結果、これだけでもそこそこ面白いと好評でしたが、何度かプレイを重ねると一人勝ちした時にチップが足りなくなる状況が起きました。対応策として、積むチップは全員共通にして、一番上だけプレイヤー別の色チップを置いて識別することにしました。
様々な高さのチップの上に色とりどりのチップが乗っている様子は、家が立ち並ぶ街並みのように楽しげに見えました。そこで、いっそのことプレイヤーを識別する一番上のマーカーはチップでなく屋根の形にして、テーマを街をつくるゲームにしたらどうかという案が生まれました。
「さいころニュータウン」の誕生です。
とはいえ、屋根を立体にするのは難易度が高く、うまい方法も思いつかなかったため、とりあえずボール紙でつくりました。パースをつけたデザインで疑似的に立体的に見えるようにしてみました。
ボール紙ながら、見ようによっては立体的に見える屋根に我ながら満足し、いおぴーに感想を尋ねると、
「ダサい。反対から見ると意味わかんない」
と、強烈なダメ出し。
たしかに。。
ボードゲームのお約束としてこれくらいは許容範囲と考えていましたが、いおぴー的には許せないらしく、
「絶対、木で作った方がいい」
と言います。
「そうは言っても、木で屋根作るのはかなり難しいんだよ。とくに台形のやつは」
しかし、いおぴーは簡単にできると言って譲りません。
まあ、物は試しとホームセンターで材料になりそうな木材を買い込み、屋根づくりに取り組みました。三角の屋根は幸いちょうどいい三角の木材があったのでそれを適当な長さに切るだけでできましたが、問題はやはり一番大きな家に使う台形の屋根です。これは30mm幅で10mm厚の木材を30mmに切って正方形にし、四方をやすりでひたすら斜めに削るというやり方で作ってみました。すると案外すんなりといい感じにできたのでした。案ずるより産むがやすし。
さっそく絵の具を買ってきてこれに色を塗ってみると、その見栄えはボール紙の屋根とは雲泥の差。もうボール紙には戻れないと感じました。
いおぴーとふたりでせっせと木を削り、1セット分の屋根を作りました。
ついでにコンポーネント全体も見直し、煩雑な割に効果の薄かった道路は廃止し、樹も100均のプラスチック製でなく、木製の円錐を緑に塗ったものに変更しました。
進化した「さいころニュータウン」の試作品を次のボードゲーム部の活動日に持っていくと、部員たちから「すごい!」「かわいー」と歓声が上がりました。木製の家はゲーム自体の魅力を数段アップさせてくれたのです。
テストプレイごとに部員にアンケートに答えてもらい、土地タイル配置や移動、手番順などのルール見直しを重ね、ゲームはほぼ完成に近づいたかに思われました。が、
テストプレイ中に男子部員のひとりがぽつりとつぶやきました。「これ、自分は何者?何を競ってるのかな」
うーん。。確かに家づくりをテーマにはしたものの、具体的な設定などは全く考えていなかったので、返答に詰まりました。開発業者? 工務店? 業績を競う? どれもしっくりときません。
一晩考えて、中学生が遊ぶゲームをあまり世知辛いテーマにしたくなかったので、ファンタジーに舵を切ることにし、こんなストーリー設定をつくりました。
設定に合わせてさらにシステムを調整していきました。王様の土地を作り、今まで誰からもたらされていたのか不明だった様々な恩恵も王様の褒美となりました。今までは家を建てて終わりだったのが、入居者の受け入れまでをゲームとしました。
王様のための街づくり。「さいころニュータウン」は新たに「王様の新しい街 さいころニュータウン」となりました。